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ももクロ有安杏果、ソロの夢も叶わず…引退声明の切なすぎる一言

 1月15日にグループ卒業と芸能界からの引退を発表した、アイドルグループ「ももいろクローバーZ」の有安杏果(22)。21日のライブをもって完全に芸能活動を終了するというのですから、本当に突然のことでした。
ももクロ春の一大事2017 in 富士見市 LIVE Blu-ray

『ももクロ春の一大事2017 in 富士見市 LIVE』(Blu-ray)グリーンの帽子が有安さん

「22歳としての教養や知識を身に着けたい」切実な引退声明

 女の子が5人集まれば色々と難しいこともあるでしょうし、当事者にしか分からない事情もあろうかと思います。それでも直筆のコメントを読むと、考えさせられました。  特に、<規則正しい生活をして、ゆっくりとした日々を過ごしたい>とか、<22歳の女の子としての教養や知識をしっかりと身につけられるよう励みたい>といった部分からは、これ以上時間をムダにはできないとの切実な思いがうかがえます。  確かに、20歳を過ぎて「今くるよ」みたいな衣装で<コココ コーコ コッココー>(『ココ☆ナツ』)とやるのは、かなり厳しいかもしれません。  もちろん“それが仕事だろう”という意見もあるでしょうが、こんなことを若者に強いるシステム自体にもう少し疑問を持ったほうがよいのではないかと……。  かわいくて幼いのが売りの日本のアイドルは、一定の年齢になればみんな“卒業”していかざるを得なくなる。でもその空いたところには、また別の“かわいくて幼い”人が補充されるだけの話ってことですよね(ももクロは補充されませんが)。

グループ脱退でトップスターになったカミラ・カベロ

 筆者が今回の引退をことのほか痛々しく感じたのには、加えてもう一つ理由があるのです。それはカミラ・カベロ(20)の存在。2018年1月9日にリリースした初のソロアルバム『Camila』が大ヒットを記録している、いま最もホットなポップスター。そのカミラ、もともとフィフス・ハーモニーというガールズグループの一員でした。  しかし、グループの一員として与えられた曲を歌うだけでは満足できなくなり、ソロになる決意をしたのだそう(2016年12月脱退)。
発売即ベストセラーになった『CAMILA』。日本盤は1月24日発売

発売即ベストセラーになった『CAMILA』。日本盤は1月24日発売

 これが、ももクロ在籍時からソロ活動をしていた有安杏果の境遇と実によく似ているのですね。  有安さんも自ら作詞、作曲を手がけた曲を収録したアルバムを昨年10月にリリースするなど、グループ活動のかたわらソロアーティストとしての道のりも模索している様子でした。今回の芸能界引退でそれも叶わなくなってしまったのですが……。
ココロノオト【初回限定盤B】

有安さんのソロアルバム『ココロノオト』(初回限定盤B、2017年10月)「ヒカリの声」も収録

 それはさておき、実際に聴き比べてみるとカミラの「Havana」と有安杏果の「ヒカリの声」では楽曲の耐用年数に著しく差があることを痛感させられます。

有安もソロ活動でがんばっていたけれど…

 カミラの祖国キューバの音楽を下敷きにしつつ現代的な味付けもされた「Havana」なら40歳になっても歌えるだろうし、他のアーティストがカバーしても聴けるでしょう。要は、音楽に根っこ、ないし型があるわけです。  世界99ヶ国のitunesチャートで1位になる大ヒットをしたのも、音楽そのものに安定性があるからなのではないでしょうか。毒舌で知られる大御所のエルトン・ジョン(70)までもがアルバムを聴いてカミラの大ファンになったというのですから、やはり基礎がしっかりしているのだと思います。  しかし、「ヒカリの声」の若さとか青さはきわめて限定的であって、しかもそのみずみずしさは“ももクロ”という注釈なしでは成り立たないのではないでしょうか。昭和50年代のニューミュージックに毛の生えた程度の楽曲構成やサウンド、若者特有の揺れる心情を歌った歌詞。  どれをとっても、残念ながらよくあるJポップのひとつでしかありません。だから有安杏果が一人で何かやっているということは認識できても、曲そのものはあまり印象に残らない。

引退声明の、いたたまれなさ

 ここに冒頭の<22歳の女の子としての教養や知識をしっかりと身につけられるよう励みたい>との言葉がくるから、余計にいたたまれなくなるのです。もちろん、彼女には“芸能活動を頑張った”という自負や実感はあるでしょうし、それはかけがえのない財産でしょう。  けれども、その後に継続的に活かせる技能や教養の資本が残らなかった。そのことを有安さん自身が言い切ってしまったところに、今回の引退声明の辛さが集約されているわけですね。  誤解のないようにしておきたいのですが、これは決してももクロや有安杏果をどうこう言っているのではありません。むしろ、彼女の一言からはもっと大きな問題が見えてくるような気がします。  それは、中身のない達成感をエサに駆り出される若い人たちの報われなさ。22年間、立派に芸能活動を勤め上げた女性に「教養や知性を身につけたい」と言わせる社会は、やはりバランスが悪いように思うのです。 <TEXT/音楽批評・石黒隆之> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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